「Irises」（アイリス）は、オランダの画家ヴィンセント・ファン・ゴッホによって1890年に描かれた絵画です。彼は友人関係や飲酒、乱れた食生活などから心身を崩し、フランスのサン＝レミのサン＝ポール＝ド＝モーゾール修道院療養所に入所したといわれ、そのころに描いたもの考えられます。ゴッホは入所中に療養所の部屋を画室にすることを許してもらい、療養所の庭に咲くイチハツの花やアイリスなどをその一室で多く描きました。この作品は独特な筆使いで、対象のそれぞれを輪郭線で分けながら描き、その中に個々の色を塗りつぶしていくように表現されています。鮮やかで複雑な色彩と、重なった花びらや葉の表情、萎れた部分の表現も魅力的です。またこの作品は画面全体の絵の具の乗せ方や、輪郭の明確さなどから、日本の浮世絵の影響を大いに受けているとも考えられています。黄色い背景が青いアイリスの周りを取り囲むことで鮮やかな植物の色を引き立てており、花の華やかさが光る作品です。苦悩の中にあった彼にとって、花や植物は心を癒す存在だったとも考えられます。